2025年以降、トランプ大統領が繰り返し口にしているのが、「アメリカはグリーンランドを所有すべきだ」という発言です。
グリーンランドはデンマーク王国の自治領であり、主権国家の一部です。それを他国が「領有」「主権移転」「購入」を口にすること自体、国際社会では極めて異例です。
この発言は、単なる思いつきや冗談として片付けられるレベルを超え、デンマーク政府、EU、NATO、さらには世界の外交関係にまで深刻な緊張をもたらしています。
では、なぜトランプ大統領はグリーンランドに固執するのか。
今回はこれについて考えてみます。
グリーンランドとは
国・地域の位置づけ
- 正式な立場:デンマーク王国の自治領
- 主権:外交・防衛はデンマークが管轄
- 自治権:内政の多くはグリーンランド自治政府が担当
- 面積:約216万km²
- 世界最大の島
- 日本の約5.7倍
- 国土の約8割が氷床で覆われている

人口・民族
- 人口:約5万6,000人(非常に少ない)
- 主な民族:イヌイット系(グリーンランダー)
経済
- 主要産業
- 漁業(特にエビ・魚)
- 公共部門
- デンマークからの補助金に大きく依存
- 鉱物資源(レアアースなど)は未開発段階
なぜアメリカはグリーンランドが必要なのか
仮説①:安全保障のため
1つ目は「安全保障上の重要性」です。
トランプ大統領自身は安全保障上グリーンランドはアメリカにとってなくてはならないと発言しています。
国家安全保障や世界の自由のために、アメリカはグリーンランドの所有権と管理が絶対に必要だと感じている
アメリカがグリーンランドを領有しなければ、ロシアか中国が支配する。それは絶対に許さない
グリーンランドは北極圏に位置し、ロシアや中国が軍事活動を活発化させる中で、ミサイル探知や防衛拠点として重要だとされています。
しかし、この説明には決定的な矛盾があります。
デンマークやグリーンランド自治政府は、アメリカ軍の基地拡張や軍事協力そのものを拒否していません。実際、すでに米軍基地は存在し、NATOの枠組みでも対応可能です。
「主権を持たなければ安全保障ができない」という理屈は、現実と噛み合っていません。
仮説②:鉱物資源(レアアース)目的
2つ目は「地下資源」です。
グリーンランドにはレアアースなどの重要鉱物が眠っているとされ、中国依存を避けたいアメリカにとって魅力的だ、という見方です。
しかし、これも説得力に欠けます。
極寒地での資源開発には莫大なコストと数十年単位の時間が必要で、短期的な戦略にはなりません。しかも、トランプ大統領自身の発言や交渉で、資源が前面に出たことはあまりありません。
第3の仮説 ― トランプ大統領の「エゴ」
そこで浮上するのが、第3の仮説です。
「これは安全保障でも資源でもなく、トランプ大統領のエゴではないか」という見方です。
トランプ大統領は過去から一貫して、「自分の名前を残すこと」に強い執着を見せてきました。
ビル、ゴルフ場、施設、ブランド。そこに刻まれるのは常に“TRUMP”の文字です。
グリーンランド領有は、国家戦略というよりも「歴史に名前を刻むための象徴的行為」と考えると、不自然な点が一気に説明できます。
イアン・ブレマーが指摘した「本質」
この見方を明確に語っているのが、国際政治リスク研究の第一人者 イアン・ブレマー 氏です。
彼はメディアで次のように指摘しています。
彼は自分の名前を何かに刻みたい。メルカトル図法で拡大して描かれたグリーンランドをみて、トランプ氏は『これを手に入れれば、過去のどの大統領よりもアメリカを大きく、偉大にできる』と思ったのだろう。これは完全にトランプ氏個人のエゴであり、アメリカの利益ではない
私が話してきた多くのヨーロッパ首脳は、これはトランプのエゴの問題だと考えています。彼にとってこれは「遺産づくり」の一環で、自分の名前を残したいのです。
トランプ大統領自身が投稿した「グリーンランドと自分を重ねた象徴的な画像」を見るとこの考えもうなずけるものがあります。

イアン・ブレマーとは何者か
イアン・ブレマー氏は、コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の創設者であり、各国首脳やグローバル企業が意思決定の参考にする分析を提供してきた人物です。イアン・ブレマー氏は、スタンフォード大学で旧ソ連研究の博士号を取得し、25歳という若さでフーバー研究所のナショナルフェローに最年少で就任した知の巨人です。
ユーラシア・グループが毎年1月に発表する「世界の10大リスク」は毎年ニュースになります。

もし本当に「エゴ」なら、もう説得はできない
イアン・ブレマー氏だけでなく、ヨーロッパの首脳もグリーンランド問題は「トランプ氏のエゴ」と考えているのなら、これはかなり有力な説となります。
ただ、もしそうならかなり悲惨なことです。
この問題について、理屈や合理性による説得は通用しません。
実際、トランプ大統領はNATO諸国と共同で北極圏の安全保障を充実させようというNATOの提案に対し、あくまで「アメリカによる領有」にこだわり、妥協よりも威圧を選び、関税や圧力で相手を屈服させようとします。
まとめ
トランプ大統領が就任してから1年。
世界一の大国を動かすリーダーの言動が世界の秩序を大混乱させています。
もう元の世界にはもどらないのか、いま多くの人たちが困惑と絶望の中にいます。