イラン攻撃とベネズエラ強硬策の矛盾を専門家が解説
トランプ大統領は「America First」「アメリカは外国の戦争に関わるべきではない」と主張してきました。
イラク戦争やアフガニスタン戦争を批判し、「終わりのない戦争(Endless Wars)を終わらせる」と訴えてきたことはよく知られています。
しかし、アメリカはイランへの軍事攻撃やベネズエラへの強硬な軍事圧力など、外国での軍事行動を行っています。
この状況を見ると、多くの人は疑問を抱きます。
「外国の戦争に関わらないと言っていたのに、なぜ軍事行動をするのか?」
トランプ大統領は外交方針を変えたのか、それとも「America First」の考え方と矛盾していないのか。専門家の解釈を紹介しながら考えてみたいと思います。
「外国の戦争に関わらない」という主張の背景
「終わりのない戦争(Endless Wars)」への強い批判
トランプが大統領選挙の中で最も強く批判したのが、イラク戦争とアフガニスタン戦争でした。
これらの戦争は
- 20年以上続いた軍事介入
- 数兆ドルの戦費
- 多くの米兵の犠牲
を生みました。
トランプはこうした戦争を
「アメリカの失敗」
と呼び、同じことを繰り返すべきではないと主張しました。
イラク戦争・アフガニスタン戦争への反省
イラク戦争では、アメリカはフセイン政権を倒した後、国家再建(nation building)に深く関わりました。
しかし結果として
- 内戦
- テロ組織の拡大
- 地域の不安定化
を招いたと多くの専門家が指摘しています。
トランプは、こうした国家再建型の戦争に強く反対していました。
トランプ外交の基本理念「アメリカ・ファースト」
トランプ外交の中心にあるのが
「America First(アメリカ第一)」
という考え方です。
これは
- 国際秩序より国益
- 理念より安全保障
- 同盟よりアメリカの利益
を優先する外交です。
その結果、「世界の警察」としての役割を縮小するべきだという主張につながりました。
では、なぜベネズエラやイランで軍事行動に踏み切ったのでしょうか?
専門家の解釈① レイ・タケイ外交問題評議会上級研究員
トランプは「長期戦争をしない」と言っているだけ
外交問題評議会(CFR)のレイ・タケイ(Ray Takeyh)上級研究員は、
トランプの主張は
長期占領戦争をしないという意味
だと説明しています。
国家再建型の戦争への反対
イラク戦争のような
- 政権を倒す
- 国家を再建する
- 長期駐留する
という戦争は、巨額の費用と大きなリスクを伴います。
トランプはこうした戦争を避けるべきだと考えています。
限定的軍事作戦という戦略
その代わりに重視されるのが
- 空爆
- 特殊部隊
- 短期間の軍事作戦
です。
つまりトランプの外交は
「長い戦争はしないが、強い軍事力は使う」
という特徴を持っています。
専門家の解釈② ジョナサン・パニコフ大西洋評議会上級研究員
軍事行動は「抑止」のため
安全保障の専門家で大西洋評議会(Atlantic Council )の
ジョナサン・パニコフ(Jonathan Panikoff)上級研究員は、イラン攻撃について
抑止力を回復するための行動
という見方を示しています。
抑止力(deterrence)という考え方
国際政治では
軍事力を使うことで戦争を防ぐ
という考え方があります。
これを「抑止」と呼びます。
例えば
- 核開発を止める
- テロ活動を抑える
- 軍事拡張を防ぐ
といった目的です。
「戦争を防ぐための軍事力」
この論理では
- 行動しない → 相手が強くなる
- 強い行動 → 相手が慎重になる
という構図になります。
つまり軍事行動は
戦争そのものではなく、戦争を防ぐ手段
と考えられています。
専門家の解釈③
アメリカの国益が関わる場合は例外
イラン問題では
- 核兵器開発
- 中東の安全保障
- イスラエルの安全
といった問題が関係しています。
これらはアメリカの安全保障に影響するため、軍事行動の対象になると考えられています。
トランプ外交を理解する鍵
いろいろな解釈が可能かと思いますが、ここで去年出された「アメリカ国家安全保障戦略」を見てみたいと思います。
ここでは、トランプ政権の外交方針を
Flexible Realism(柔軟なリアリズム)
という言葉で説明しています。
「柔軟なリアリズム(Flexible Realism)」|新しいトランプ政権の外交概念
「柔軟なリアリズム」とは
- 世界すべてに介入しない
- しかし必要な場所では行動する
という現実主義的な外交戦略です。
「柔軟なリアリズム」の政策担当者の説明
この戦略について、国防政策の中心人物である国防総省
エルブリッジ:コルビー政策担当次官は、
「アメリカはすべての地域に同時に関与することはできない。だからこそ優先順位を決める必要がある」
と説明しています。
つまり柔軟なリアリズムとは、
世界中ではなく重要な地域に集中する外交
と言えます。
「孤立主義でも世界警察でもない」外交
この戦略は
- 孤立主義(Isolationism)
- 世界警察型の介入主義
の中間に位置すると言われています。
トランプ外交は
必要な場所だけ強く行動する
という特徴を持っています。
まとめ
トランプ外交の本質
トランプの「外国の戦争に関わらない」という言葉は、軍事行動の全面否定ではないのかもしれません。
まとめると次のように解釈できるかもしれません。
① アフガニスタンやイラクのような長期占領戦争はしない
② 抑止のための限定的軍事行動は行う
そしてこの考え方を体系化したものが
「柔軟なリアリズム(Flexible Realism)」
なのでしょう。
そうであれば当初の外国の戦争に関わらないという言説と一応矛盾していません。
この戦略は軍事力を効果的に使ってアメリカの国益を最大化させるということなのかもしれません。
しかし、私にはそれでもイランの核開発がアメリカの生存を脅かすほど差し迫っていたとは思えません。
イスラエルのためにやったとしか思えないのです。
トランプ大統領にとってイスラエルは他の同盟国よりもかなり優先度が高い、否、アメリカと同等のように思えます。
また、「柔軟なリアリズム」が成功するかどうかはまだ分かりません。
イランのトップを取り除くことが、体制転換にはつながらないと思います。
今後の情勢の行方に注目したいと思います。